#5 「『この仕事を誰にお願いしようか』という時、名前を思い浮かべてもらえる存在でありたい」 - 綿引琢磨さんインタビュー

IT業界のフリーランスの方に役立つ情報を共有するためのイベント「フリーランストーク」のインタビュー記事です。提供するCMパートナーズはフリーランスの方にクラスメソッドや事業会社の案件を紹介するマッチングサービスです。
IT業界では今、独立を検討されている方や、実際にフリーランスとして活動される方々が増えてきています。そんな皆さんと、フリーランスに役立つ情報を共有するイベント「フリーランストーク」。次回、2023年11月21日開催回に登壇していただくのは、ソフトウェアエンジニア/アーキテクト/コンサルタントとして活躍している綿引琢磨さんです。
 
綿引さんは、複数のシステム開発会社での勤務を経て2004年に独立。その後、約20年にわたりJavaを主軸に開発案件に携わる一方で、書籍の執筆やユーザーグループの運営委員など、コミュニティ活動も積極的に行ってきました。「フリーランストーク」登壇に際して綿引さんへ、これまでのキャリアの変遷や今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

C++に触れたことがきっかけでJavaエンジニアへ

 
──これまでのキャリアや、現在の仕事について教えてください。
 
綿引:フリーランスになる前は、システム開発会社2社、合わせて4年弱在籍していました。1社目で携帯電話のOSプラットフォーム開発に関わり、その案件でC++言語を初めて使いました。自分がオブジェクト指向に触れたのはC++が初めてだったんですが、オブジェクト指向の考え方がとても面白いと思ったんです。一方で、その頃のC++はライブラリが充実していなかったり、メモリの解放を自分で行わなければいけない等、使いこなすのが難しい言語だと感じていました。
 
そんな時に、C++と同じオブジェクト指向でメモリ解放など自動で行ってくれるJavaの存在を知り、Javaの勉強を始めました。当時Javaを用いたWeb系システムがトレンドだったこともあり、Web系の開発会社に転職しました。転職先の会社では、自分がやりたいと思っていたJavaの仕事に関わることが出来ました。
 
その後、フリーランスとして2004年に独立し、2007年には法人を設立し、今に至ります。基本的にはJavaの案件が多いですが、現場に応じてアプリやフロントエンドをやることもありますし、アジャイルコーチや新人研修の支援をすることもあります。
 

"人の繋がり"で案件を確保

 
──独立して最初の仕事は、どのように獲得したのでしょうか。
綿引:2社目時代の同僚が、案件を紹介してくれました。営業担当だった同僚が担当している案件を「手伝って欲しい」と相談を持ちかけてきたので、引き受けることにしたんです。それ以降も、過去に一緒に仕事をした人から仕事を紹介されたり、一緒に手伝って欲しいと誘われたりするケースがほとんどです。独立してから今に至るまで、フリーランスエージェントは一度も契約していません。
 
周りの人に恵まれた結果、良い仕事にも恵まれていると感じていて、一緒に仕事をして楽しかった人や、一緒に仕事をしやすいと感じた人とは、案件が終わった後も友人として定期的に食事に行ったりしています。
 
C++に触れるきっかけとなった携帯のプラットフォーム開発のメンバーとも、プロジェクトが終わってからも定期的に食事に行って近況報告をしていました。その繋がりの中で「綿引さん、Javaやってるんでしょ。サン・マイクロシステムズ(Java言語を開発した企業。2010年にオラクルに吸収合併。以下サン)がエンジニアを探しているらしいよ。どう?」と声をかけてもらいました。Javaの開発元ということで興味もあり、ダメ元で面談に行ってみたところ、見事に採用され、開発業務に従事することができました。
 
結果的に約1年常駐する形で開発プロジェクトに関わっていました。サンの方からは、プロジェクトを終えた時に「また機会があったら仕事がしたい」と言っていただきました。それからしばらく接点が無かったのですが、自分が法人を設立したタイミングで挨拶に伺ったところ、新しい仕事のオファーをいただいたんです。その時は、Javaのコンサルティングや教育支援などさまざまな経験をすることができました。
 
──コミュニティ活動については、どのようなことをされているのでしょうか。
 
綿引:フリーランスになった当初は、意識的に勉強会に参加するようにしていました。勉強会に参加することが単純に楽しかったですし、周りの参加者から刺激を受けていました。しばらく経つと、ただ勉強会に参加するのではなく、参加者に名前を覚えてもらおうとか、エンジニアの知り合いを増やそうという意識も少しあり、勉強会ユーザーグループの運営側に参加する機会が増えました。勉強会で知り合った人から仕事を紹介されるケースもありましたよ。
 

初めてのクライアントと円滑に業務を進める工夫


──フリーランスになって苦労したことはありますか。
 
綿引:お互い相手をよく知らない状態で仕事を依頼するのは、依頼をする側にとっても受ける側にとっても難しいなと思います。過去に仕事を一緒にしたことがある人と比べて、勉強会で何度か一緒になったくらいの人では、やはり自分のことを深く知ってもらえていないことが多いです。自分のスキルや仕事スタイルを十分に把握していない人から紹介された仕事を引き受けて、クライアントとうまくいかずに短期で終わった案件もあります。
 
スキルが期待値と比べて不足している時もあれば、スキルは問題なくてもコミュニケーションのスタイルが合わない時もある。1回仕事をしてみて、その後に継続するか考えたいというケースも多いと思います。
 
自分の場合は、クライアントとの間に十分な関係ができていないと感じた時には、正規の価格を伝えた上で、“初回トライアル”ということで少し低めの価格で打診するようにしています。トライアルでお互いの相性を確認して、問題なさそうであれば正規価格に切り替えて契約を継続する形ですね。
 
──法人を設立した理由を教えてください。
 
綿引:まず、法人と個人とで財布を分けたいと思ったのが、理由の一つです。仕事上の売上経費と個人の収支を明確に分けてお金の管理をしたかったからです。別の理由として、法人じゃないと受けられない仕事があることを周りで見聞きしていたので、その対策としても法人を作ろうと思いました。
 
税金が得になるからという理由で売上が一定規模を超えた段階で法人を設立するという考え方もありますが、自分は必ずしも正解だとは思いません。税制度は社会情勢によって変化するものであり、もし現行制度で法人の方が有利なことがあっても、将来は法人の方が不利になる可能性もあると考えているからです。個人的には、法人を設立するか否かは、税金などの単純なお金の損得以外の理由で決めるべきだと思います。
 

「この仕事を誰に頼もうか」と考えたとき、名前が思い浮かぶ存在でありたい

 
──10年後こうなっていたい、というイメージはありますか。
 
綿引:今は周りの人に恵まれた結果、良い案件に関わることができています。10年後も今と同じように、案件がある時に声をかけてもらえるようにスキルや人間関係、健康を保っていたいと思いますね。
 
何か仕事がある時に声をかけてもらえるかどうかって、フリーランスだけでなく会社員でも同じだと思います。会社員であっても、「あの人とは仕事したくない」と思われたら、良い仕事は回ってこない。「この仕事を誰にお願いしようか」と考えている時に、名前を思い浮かべてもらえる存在であることは重要ではないでしょうか。
 
──最後に、フリーランスになることに興味があるイベント参加者に向けて、メッセージをお願いできますか。
 
綿引:参加者の年齢層は、30歳前後の若い方が多いんじゃないかと想定してのメッセージになりますが、独立に興味があるなら一度チャレンジしてみたら良いと思います。個人事業主の良いところは、開業届を出せばすぐに始められること。そして、廃業届を出せばすぐに辞められることです。最近は案件を紹介してくれるエージェントもたくさんありますし、個人事業主として仕事がうまく行かなかったら転職活動をして、また会社員になることもできます。
 
自分が独立した際も、2社目の会社で付き合いがあった方から「何かあったらうちに来てよ」と声をかけてもらいました。「駄目だったらまたどこかの会社に入ればいいや」くらいの気持ちで独立したように思います。
 
── ありがとうございました。「フリーランストーク」イベント当日は、参加者の皆さまからの質問にお答えする時間も設けておりますので、綿引さんのさらなる貴重なお話を伺うことを楽しみにしています。
 
フリーランストーク」はこの記事でインタビューに答えてくださった綿引さんに、よりリアルなお話しをしていただき、またQ&Aを設けることで、参加される皆さまのキャリアに少しでも役立つように設計されたオンラインイベントです。ぜひご参加ください。