#1 スキルを切り売りせずに楽しみつづけるフリーランス歴20年の経験談 - 森雄哉さんインタビュー

IT業界のフリーランスの方に役立つ情報を共有するためのイベント「フリーランストーク」のインタビュー記事です。
「『フリーランスを辞めたい』と思ったこと、実はないんです」
こう話すのは、フリーランスという立場で、新しい製品・サービスを作るプロダクトマネージャー、又はそれらの支援や組織づくりで活躍している森雄哉さん。リーマンショックから始まった世界同時不況、また近年のコロナ禍では、半年先までの仕事が全部キャンセルされたこともあったそうです。しかしそうした苦境を乗り越え、現在まで20年近くフリーランスとして活躍されています。
テクニカルデザイナーとしてキャリアをスタートしてから仕事の幅を広げてキャリアアップをしていった森雄哉さんに、フリーランスを楽しむ秘訣や心構えを聞きます。
 

「フリーランスで収入アップ」にひそむ罠

 
—— リモートワークが普及してから場所や時間にとらわれない働き方がいっそう増えてきました。特にソフトウェア開発業務は案件依頼が多く、「収入を上げるためにフリーランスになろうかな」と考えるエンジニアの会社員も多いと聞きます。
 
森:独立の動機が収入アップだけだと、私は続けるのがつらくなるんですよね。
高単価だけを見て仕事を取りに行くと、自分の限られた経験に頼りがちですし、クライアントさんの要望だけに応えていると、スキルの切り売りになりがちです。
私は自分の賞味期限を延ばせるようなお付き合いを心がけています。
クライアントさんの役に立ち、自分のスキルアップにもつながる提案を自分からしています。「こういったことをやってみませんか」と積極的に話を持ちかけ、同じクライアントさんとのお仕事でも去年と同じ仕事はしないようにしています。
私にとってスキルの切り売りは自分の賞味期限を縮める行為です。
 
—— スキルの切り売りを避けるために日頃から考えられていること、工夫されていることはありますか?
 
森:”自身の強み”は自分から見た強みではなく、お客様から見て「こういう人が欲しい」というところに繋がらないといけないと考えています。
私自身はテクニカルデザイナーからキャリアをスタートし、現在はプロダクトマネージャーや新製品開発、新規事業、又はそれらの支援を手がけています。
「自分はこういう言語ができます、こういう技術に詳しいです」といっても、発注してくれる企業さんに興味関心がなかったら案件には繋がりません。発注してくださるお客さんにとって「まさしくこういう人を望んでいた、手伝ってほしい」という部分を強みにしていくことは大切かなと思います。
 
—— クライアント企業が「まさしく求めていた」というレベルとなると、高いスキルは欠かせませんね。
 
森:高いスキルは求められますね。でも、求められているのはそれだけではないんです。依頼の文書には見えない企業のニーズもあります。
たとえば担当者さんとスムーズにやりとりができたり、会社の他のメンバーともすぐに打ち解けられたり、技術的な部分を他のメンバーに対してリードしてくれるといったことです。ある程度の水準の技術力は必要ですが、実は会社さんが望んでいるのは契約書には書かれていない部分だった、という場合もあります。
「問題などが発生したら適切に対処をする」のも、リーダーやマネジメント業務のひとつです。しかし、こうした状況は事前に内容を決められませんし、文章では表現できないニーズといえます。
依頼された業務の範囲外でも、「誰かに担ってもらえたらありがたい」という業務はあるので、「何かお悩みはないですか?」という形で案件の担当者から聞いておくといいと思います。
 

案件のやりとり以外のコミュニケーションはとれている?

 
—— クライアント企業と今後の自分、両者にメリットがある提案となると、やはり一定以上の品質やスキルが求められると思うのですが。
 
森:フリーランスが請け負う仕事には2種類あると思っています。ひとつは、一定以上の基準を満たす成果物や仕事を提供するもの。もうひとつは、社内の知見が少なかったり、社内の誰かに依頼するには少しリスクがあったりするものです。
後者の場合は、品質よりも取り組みを評価されるように感じます。
たとえば新規事業では「社内でもよくわからないから取りかかれないし、初めての作業は外部に依頼したい」というリサーチ業務のニーズがあったりします。
以前お客様に「ちょっと下調べしましょうか?」と声をおかけし、すごく感謝された経験がありました。社内で手を出しにくい業務に率先して取り組んだこと自体に価値を見いだしてくれたんじゃないかと思います。
 
—— 依頼された案件を受けて納品する、にとどまらないコミュニケーションもカギになりそうです。
 
森:そうですね。案件の担当者だけでなく、決裁者や意志決定者に自分の活動の話をする機会をもつと、自然とプラスアルファの提案がしやすくなるのではないでしょうか。
担当者の上司、もしくはそのまた上司くらいの人と繋がりが作れたら、外注だけのやりとりではなく、「社員のかわりにちょっとやって欲しい」「最新情報について意見交換させてほしい」といった要望を聞ける機会に繋がります。
 

“頑張りすぎない”フリーランスのススメ

 
—— 森さんはクライアントへの提案によって業務の領域を広げられたとのことですが、自身の強みとしてプロダクトオーナー業務や関連スキルを選ばれた理由は?
 
森:戦略的に身につけた、というよりは、偶然の要素が大きかったんですよね。その偶然を活かそうとしました。
当時はプロダクトオーナーの情報がほぼ外に出ず、需要と供給のギャップが非常に大きかったんです。IT系の勉強会に参加していても、ソフトウェア開発者の振る舞いやスクラムを使った開発というテーマは毎年100件近く開催されていましたが、プロダクトマネジメントやプロダクトオーナー関連の勉強会は年間でたった数件しかありませんでした。
プロダクトオーナー業務はプロダクト開発、ひいては事業の行方を左右するくらいに重要です。だからこそ「プロダクトオーナーが今(当時)以上に重要視されるタイミングが来るだろう」という予想はありました。
 
—— 常にアンテナを張っておきたいですね。森さんはSpeaker Deckやnoteなどで積極的に発信をされていますが、こうした制作物をきっかけにお声がかかることはあるのですか?
 
森:基本的には長年のお付き合いがある企業さんからのお声がけが多いのですが、スライドなどをご覧になり、ご興味を持ってくださる企業さんもいらっしゃいました。優れた営業ツールだと感じています。
もし勉強会で登壇してそのあと名刺交換をしたとしても、名刺では相手に伝わる情報量はほぼゼロに近いです。それよりはスライドをネットで公開したり、ブログを書いたりしたほうが、自分の強みをわかりやすく伝えられると考えています。
 
—— 実際の業務以外にも必要な作業、力のいれどころということでしょうか。
 
森:あ、頑張りすぎるのは良くないと思います。「仕事のために」と頑張っていると疲れてしまいますし、そうなると発信を止めてしまいます。続かないんです。
日常的な情報発信がおすすめです。発信を始めてもすぐに自分の仕事に繋がるとは限りませんが、続けていくことで「あの人は〇〇について知っている」と認知されていきます。途中で発信を辞めてしまうと、仕事の発注の機会も減って負のサイクルに陥ってしまいます。
疲れているときでも情報発信をしたり、勉強をしたりするとストレス解消になる方はフリーランスに向いているかもしれませんね。
 

ノートPC備え付けのカメラでリモート会議してませんか?

 
森:フリーランスはこうした営業ツールに磨きをかけていくのも大切ですが、自分の評価を小さなことで下げないことも重要だと思っています。
案件をしっかりこなしていても、実はクライアントさんが抱えている不満って少なくないんです。今はリモートワークが増えてきていますが、マイクとカメラの品質が悪い方はまだまだいますよね。企業の担当者から見て、「技術力に自信があります」と言っている方が、ノートPCに備え付けのマイクとカメラで打ち合わせをされていたら少し不安になりませんか?
 
—— たしかにカメラの画質が低かったり通信環境が不安定なエンジニアに案件を依頼するのは不安になるかもしれません。
 
森:クライアントさんからの指摘がなくても、ちょっとした部分で「なんかこの人微妙だよね」というふうに評価を下げるのは非常にもったいないです。
自分では気づきにくいところですので、マイクやスピーカー、カメラ環境などはある程度しっかりした性能のものを事前に整えておくといいんじゃないかなと思います。
 
—— 業務外というと、契約書や手続きまわりの手続きがスムーズにこなせるかどうかもクライアントからの評価に関わりそうですね。
 
森:エンジニアやデザイナーの業務と、事務仕事は正反対のように見えるかもしれませんが、事務仕事はスムーズに仕事を進めていくうえではものすごく重要になってくるんですよね。
やりとりが進めづらい、請求書や見積書のフォーマットが毎回崩れている、といったクライアントさんの不満は失注のきっかけにもなります。委託される業務とは別に「こなせて当たり前」な部分といえると思います。
ですので、いま会社に勤められていて外部への発注されているのであれば、発注先やフリーランスの方々とのやりとりで違和感があった部分や、不満に思った部分を自分では繰り返さないようにしておくといいんじゃないかなと思います。
もし発注に関わっていないなら、外部の方との打ち合わせに参加できないかなどを相談してみると良い体験になると思います。
 

会社員から独立したい人へ〜在職中に学べることはたくさんある

 
—— 評価を下げないために心がけていることをうかがいましたが、森さんはどのタイミングで事務仕事などを学ばれたのですか?
 
森:実は独立する少し前に、全く別の業種事務的なところで1年ほど働いた経験があったんです。事務とは一体何かを学べてすごいプラスになりましたね。
企業には期首のあわただしい動きや四半期ごとの資料準備、決算……という1年の流れがあります。このひととおりのサイクルを体験していると、クライアント担当者の方だけじゃなく、その裏側にいる総務や経理の方の動きが見えてきます。
ですので総務の方々の働きかたや、総務の方々が関心を持っていることを知っておくのも、スムーズに企業さんとやりとりをしていくうえでプラスになるかなとは思います。
 
—— これから開業を考える会社勤めの方にこそ、知っていてほしいですね。
 
森:そうですね。開業前に準備してよかったことの一つだと思っています。
もし今勤めていらっしゃる方であれば、事務の方と仲良くなってどういう仕事をされているのかとか、などを根掘り葉掘り聞いてしまうのもありかもしれません。
実は会社員だからこそできる経験はたくさんあると思います。
たとえば、自分のやりたい仕事や近い業務を担当できるように上司やその上の上司に話を持ちかけるといったことです。意志決定者との交渉は独立すると経験しづらくなりますし、身につけにくいスキルだと思います。
 

技術の進歩も世の中の変化もすべて楽しむ

 
森:最初にもお伝えしましたが、フリーランスや事業主になりたい方に伝えたいことがあるとしたら、収入はあくまで二次的な報酬である、ということです。
お金はあとからついてくる、というスタンスで、いろんな会社さんといろんな面白いことができるとか、世の中の変化に合わせて仕事を作ったり提案していくことを楽しむ。そうした中でたまたま高単価の案件に巡り会う、みたいな感じが良いのかなと感じています。
 
—— 収入第一になってしまったら、報酬額だけに振り回されて新しい挑戦の機会を狭めてしまうといういうことでしょうか。
 
森:そうですね。たとえば収入だけを狙ってしまうと「予算は限られているけど新しいことをやってみたい」というお客さんの案件には手を出しづらくなってしまいます。
クライアントさんの予算がつかず高単価でなくても、新しいチャレンジができることを楽しめるといいんじゃないかなと思います。お客さんとやりとりをしていく中で「もっと楽しい仕事にしたい」「より良い仕事をしたい」という気持ちを持ち続けられると自然に良い仕事になるでしょうし、お客さんからも喜ばれて新しい依頼が入るんじゃないかと思うんです。
これからフリーランスになる方は、仕事そのものはもちろん、世の中のトレンドや新しい技術、ときには好景気・不景気まですべてをひっくるめて楽しんでください。

最後に

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